初めて訪れた街で、道を尋ね尋ねて、初めて入る銭湯ののれんをくぐる。番台のおばちゃんは、ラジオを聞きながら、女湯の常連さんと天気の話しをしている。黙って冷蔵庫からコーヒー牛乳を取り出したかと思えば、それはいま男湯から上がってきた爺さんのものだ。鏡の上にはカチカチ引っ張ってつける形式の、羽の青い扇風機があって、巨大な体重計の横の壁には、古いアイドルが火の用心を呼び掛けていたりする。ロッカーはあるが、皆カゴで済ましている。盗難など起こらないのだ。風呂場で男はあまりしゃべらない。静かに用を満たしつつ、賑やかな女湯の声を皆何となく聴いている。北海道の湯は特に熱い。脚だけで浸かっていると爺さんが水を出せと勧めてくれる。風呂から上がって壁の地図など見つめていれば、体と共に、心も芯から暖まっていることに気付く。ユニットバスにも温泉宿にも無い、何かがある。僕は銭湯がすきだ。
comment (1)
この話が一番好き。
きっと文才があるんだろう。
読んでても飽きない。
日々チェックしてしまう自分がいる。